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コラム神国の首都 Vol.122

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島根県松江市 クリエイティブ・コモンズ

縁起の良い初夢ならいいのですが、のどが渇いてコップの水を飲もうとするのにどうしても手が届かない夢で目が覚め、一瞬キョトン。天井は見慣れた板張りと違って無機質なコンクリート、横はベージュ色の頼りなげなカーテンの壁。ベッドに横たわる右腕からはチューブが伸び、その先に大小2つの袋がブラリ。はて、ここはどこ?
体調がすぐれず薬でももらおうと、かかりつけ医に行ったところ、「血液検査の数値が異常。すぐ総合病院へ」と思いがけない言葉。ネクタイに背広姿から、いきなりパジャマ姿で車椅子の人となり、CTやX線など諸検査の挙句が即入院の〝宣告〟でした。開腹手術は免れたものの、絶食と抗生剤投与のベッド生活が始まったのでした。

■体が小さくなった?
入院の記憶があるのは子ども時代の盲腸の手術ぐらい、相部屋も学生時代の寮生活以来とあって、病身の立場とは知りつつ、出るのはため息ばかり。同室の患者と見舞客の声高な会話に遠慮のない笑い声、廊下を慌ただしく行き交う足音、ストレッチャーなどの機械音、階中に響き渡る患者のわめき声…。誰彼の寝返りさえ気になるのに、皆さんあきれるほど無遠慮にププー、ブリッとやらかすのです。3メートル四方ほどしかないスペースとベッドの狭さにも閉口しました。圧迫感と、ちょっと体を動かせば鉄パイプにゴツン、枕元から単行本が床にストン、足元からは布団がズルリ。
ところがです。1週間ほどたった朝、天井やカーテンで仕切られたスペースがやけに広く感じてアレッ?本や新聞紙などが散らばるベッドでもそう不自由せずに寝返りができてアレッ?一瞬、自分の体が小さくなったような錯覚に陥りました。

■体が大きくなる?
「人間は自分を大きく見せようとする動物でね。都会暮らしに慣れ、肩書が付き名声を得るほどに体が大きくなっていく錯覚に陥るものなんだよね」。かつて杯を交わした柳生博さんの体験談を思い出しました。俳優として名前が売れるほどに体がどんどん膨らんでいったという柳生さん。「身の丈が3メートルぐらいに感じたこともあったなあ。これはいかんと思ったね」。柳生さんは生活拠点を東京から山梨県八ヶ岳に移します。
柳生新陰流を伝承する柳生家には「男は元服したら一人旅をさせる」というしきたりがあり、柳生さんは13歳にして長い一人旅に出ます。最初に行き着いたのが八ヶ岳であり、ここでの野宿が柳生さんの人生観に大きな影響を与えます。テントの周りを徘徊する鹿や熊に脅えて身を縮こませているうちに体が段々小さくなり、「しまいには猫より少し大きい程度になってしまった」と。今も柳生さんが八ヶ岳にこだわる所以(ゆえん)です。

■檻の中の老いた鼠
病床で徒手空拳の身。柳生さんの例と、今年の干支の鼠(ねずみ)になぞらえれば「まな板の鯉」ならぬ「檻の中の鼠」か。身動きできない檻の中で、頼りなげに辺りをキョロキョロと見渡す老いた鼠を想像して笑ってやってください。
小欄を担当して11回目の正月を迎えました。「猫の額にある物を鼠がうかがう」。身の程知らずの小生が、今年も厚かましくコラムを書き続けるわがままをお許しください。
(瑛)

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