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市報松江 2019年8月号

コラム神国の首都 Vol.117

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島根県松江市 クリエイティブ・コモンズ

山々を縫って滔々(とうとう)と流れる川、その山あいの村で悲喜をのみ込みながら暮らす人々…。泣きたくなるほど美しい風景に、ナレーションが覆いかぶさります。「毎日を何気なく過ごしていると、足元にある小さな幸せに気付かないものだ」。錦織良成監督が言う「優しい映画」はこうして、ある予感を抱かせながら静かに始まっていきます。
映画「高津川」。日本一の清流と言われる高津川を太い縦軸、その地で暮らす小学校の同級生を横軸に、UIターンや老い・介護、環境問題、進学や後継ぎなどのテーマを織り交ぜて紡いだ群像映画。ときに切れそうになる糸を石見神楽の錦糸が丁寧に縫い繕い、光彩を放ちます。

■研ぎ澄まされたセリフ
登場人物のセリフが秀逸です。研ぎに研ぎ、練りに練られた言葉が胸に迫ります。認知症の母の介護のために結婚を半ばあきらめ、永く続く和菓子屋を継ごうとする娘と父との工房での会話。父「うまくなった」娘「お世辞はいらないから。まだまだなのは自分で分かっている。私本気だから…」父「(優しく)力が入っている。楽しくやることだ」。父が去った後、娘はつぶやきます。「そりゃ力入るわよ。継がなきゃいけないんだから」。
進学か地元に残って神楽を引き継ぐかで悩む高校2年生の息子と父の会話。息子「変に理解のある親ばかりだから地元からみんないなくなっちゃうんだよ。ここにいろ!跡を継げって強く言えばいいんだ」父「そうか……」息子「俺…(神楽)やるよ」父「ん………」。この後、家族そろってスイカをほおばり、種飛ばしに興じます。

■故郷愛が半端ない!
島根に帰って初めてメガホンを握った「白い船」から17年。舞台となった塩津小学校(出雲市平田町)は閉校となり、「高津川」のモデルの左鐙小学校(津和野町左鐙)も同じ運命に。錦織監督は「白い船」のアンサー映画と位置づけ、ふるさと愛を直球でぶつけてきます。東京での試写会では招いたマスコミ関係者らが「腰砕けになるほど泣いていた」(錦織監督)といいます。
弁護士となり都会で暮らす同級生が久々に帰郷し、父と対面するシーン。認知症が進んだ父は自慢の息子の顔が分かりません。愕然とし、泣きながら父に何度も頭を下げる息子。不思議そうな表情の父。ふるさとへの思いを日々の忙しさで覆い隠す、ある種の後ろめたさを思い切り突かれたのでしょう。登場人物の誰かと重なり合い胸がえぐられます。

■映画の2次利用可能
映画では懐かしい顔が映し出されていました。元左鐙公民館長のFさん。地元の人たちによる手作りのオリジナルビデオドラマ作成(8本)を手掛け、それを縁に地域ぐるみで錦織監督との交流を続ける中心人物。出雲市での試写会で顔を合わせたFさんは「我々の思いがこもったオリジナルビデオドラマと(映画が)つながっている」とうれしそうにつぶやきました。
映画「高津川」は今冬初めに公開の予定。制作した「護円」は、「世界に誇る島根の魅力を世界に発信するとともに、地元でも自治体などで活用してほしい」と言います。定住や子育て、介護などテーマによって映画を再編集、短編として独自上映も可能とのこと。まずは映画館で見て、次は短編で地域課題を確認して行動を起こす。森田公一とトップギャランの「青春時代」ではありませんが、私には「胸に棘(とげ)刺すことばかり」のこの映画、感動と共感、ついでに慚愧(ざんき)の涙を流すこと請け合いです。
(瑛)

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